< 日本糖尿病財団理事長 科学映像館名誉館長 金澤康徳 >
私がジュネーブ大学から帰国し、東大で膵臓のβ細胞の単層培養系を使って仕事を始めていたところ小林米作さんが乗り込んできたのです。米作さんは培養された内分泌細胞が活発に動いているのを見て、この活動がインスリンの分泌や合成に関与していると感じ取り、画像化する努力が始まりました。
顕微鏡を挟んで、私の知る限りの知識で米作さんと討論しました。その時、種々の計画や画像が米作さんの脳を駆け巡っていたようです。
実際の撮影はほとんどが、五反田のヨネ・プロダクションのスタジオ内に設営した実験室、培養室で行われました。細胞の静止状態、活動状態の変化、細胞質内を活発に動くインスリンの顆粒、これらの生物学的意義を米作さんと議論しながらフィルム作りが進行しましたが、画像は私の範囲を超えて広がっていき、米作さんの感性が未知の科学の分野をとらえているのではないかと感じました。
できあがったフィルムの画像では、従来血流量が多いと推測されていたランゲルハンスの島はあたかも血管の魂のように映像化されていました。またβ細胞は分泌刺激により大変活発にヒラヒラと動いていて、細胞質内では0.2umという光学顕微鏡では従来見えるか?といわれたインスリンを含むβ顆粒が活発に活動していました。これらの画像は内分泌細胞の研究の分野に動的細胞学ともいうべき新しい学問分野の導入を意味するものでした。
小林米作さんは、生物現象に新しい側面を発見する特別な眼力を持った芸術家であったといえるでしょう。