制作:東京シネマ新社 企画:日本ビクター 1998年 カラー 35分
(1)蓑脇の時水
(2)三井の晩鐘 9:29
(3)彦根城の時報鐘と虫の音 19:21
(4)春日野の鹿と諸寺の鐘 26:55
武生市味真野地区の蓑脇町に、標高611メートルの大平山がある。この山には頂上が二つあり、北向きの谷間は木呂谷と呼ばれている。その中腹に洞孔の奥の亀裂から、ほぼ60分間隔で最高200リットルの水が吹き出している間歇冷泉が存在する。
水量は季節や降雨などに関係なくほぼ一定し、最高噴出水位から50分ほど経つと最低水位となり、止まることはない。
最高水位に近くなると下流の滝の音が大きくなり、昔、山で仕事をしている人たちが、この音を時計がわりにしたことから、「蓑脇の時水」と呼ばれた。間歇の原理は定かではないが、地元の人たちは、この不思議な自然現象を大切に守り伝えている。
(残したい日本の音風景100選から)
清近江八景のひとつとして有名な「三井の晩鐘」は、天台寺門宗総本山の園城寺(三井寺)の金堂前の鐘楼につるされている。この鐘は慶長七年(1602年)に、伝説で知られている「弁慶の引摺鐘」を摸して造られたものである。
琵琶湖を眼下に見下ろす長等山の静かで広大な境内にあるこの鐘は、毎夕、暮れ六つの鐘として周辺に時を告げ、大晦日には、琵琶湖の竜神伝説に由来する除夜の鐘の行事も行われる。
その音色のすばらしさは古くから知られ、形の平等院、銘の神護寺とともに、音の三井寺として日本三名鐘のひとつに数えられており、長い歴史が育んだ物語や伝説とともに、地域の人々に親しまれている。
(残したい日本の音風景100選から)
琵琶湖畔の小高い丘の上に端正にそびえたつ白亜の彦根城。その時報鐘は、国宝に指定されている天守のすぐ近く、城下を一望できるところにある。元は鐘の丸にあったが、城下一帯によく聞こえるように、現在の場所に移された。
12代藩主、井伊直亮の時代に、より音色の美しい鐘にするために、小判を入れて造られたと伝えられており、現在でも時代の移り変わりを音色で知らせる「時のオルゴール」として、城の係員によって朝6時から夕方6時までの3時間ごとにつかれている。
また、彦根城を背景に聞こえるヒグラシの蝉しぐれや、スズムシなどの虫の音は、旧大名庭園「玄宮園」の風情を醸し出している。毎年9月には、虫の音を聞きながら邦楽、野点を楽しむ「玄宮園で虫の音を聞く会」が催される。
(残したい日本の音風景100選から)
奈良市のほぼ中央に位置する春日野あたりは、初夏の鮮やかな緑はもちろん、四季それぞれに多様な姿を見せるとともに、約1200頭もの野生の鹿が、訪れる人々をつぶらな瞳で迎えている。
早朝、この辺りを散策していると、静けさのなかに時折鹿の鋭い鳴き声が響き、さわやかな空気に溶けあったその風景が、心をなごませてくれる。
また、奈良の歴史の象徴ともいえる社寺も数多く、奈良公園の玄関にあたる五重塔のそびえる興福寺、大仏殿を構える東大寺はその代表である。そして寺々の鐘は、創建の頃より時の流れをこえた重みのある鐘の音を響かせ、古都奈良の町と人々に安らぎを与え続けている。
(残したい日本の音風景100選から)