制作:東京シネマ新社 企画:日本ビクター
1998年 カラー 33分4秒
(1)唐津くんちの曳山囃子
(2)伊万里の焼物の音 16:46
(3)山王神社被爆の楠の木 25:56
唐津くんちは唐津神社の秋祭りで、16世紀終わりに始まった伝統行事である。
最大の呼びものは曳山行列で、刀町の1番曳山「赤獅子」から14番曳山「七宝丸」まで、いずれも勇壮華麗な14台が登場する。高さ5.2メートル余り、重さは2トンから3トン、車輪をきしませ町内を曳き回す。
一番の見どころは、氏神の休憩の場所となるお旅所への曳き込みで、ここが砂地であるため、車輪がめりこもうとする曳山を曳子たちが一丸となって「エンヤ、エンヤ」の掛け声も勇ましく、ありったけの力をふり絞る。
せり囃子が一段と高まる中、祭りは最高潮に達する。曳山囃子には「道ばやし」「せりばやし」「たてやまばやし」があり、各曳山ごとに囃子も微妙に異なっているのが面白い(残したい日本の音風景から)。
秘窯の里「大川内山」は、三方を切り立った山に囲まれ、山水画を思わせる山紫水明の地にある。江戸時代には鍋島藩窯として栄え、世界の最高峰と言わしめた”色鍋島”"鍋島染付”"鍋島青磁”の名品を生み出している。
この歴史的文化遺産の保護顕彰と憩いの施設として整備されたのが「鍋島藩窯公園」で、大川内山を見晴らす丘陵地に広がり、園内には焼き物の風鈴を吊るした「めおとしの塔」が立ち、澄んだ鈴音を鳴らす。
伊万里焼は、成形・乾燥・素焼・下絵付・施釉・本焼・上絵付・窯出しの多くの工程を行って、1つの伊万里焼ができあがる。この各工程において、陶石を砕く石臼の音やロクロを回す音、窯焼きをする音などが調和して、焼き物の美しさとともに優雅な音の世界をつくり出し、歴史と文化の香を満喫させてくれる(残したい日本の音風景から)。
2本の大楠は、片足鳥居で有名な山王神社の境内にある。ここの1本足鳥居も片方の柱を原爆で吹きとばされたまま、五十数年間無言で立ちつくしている。
大楠は幹回り8m、6mと大きく、樹齢は500年以上という。原爆で幹も枝も裂け、黒焦げとなり、枯れたかに見えたが2~3年後、奇跡的に芽吹いた時には町の人たちは楠に抱きついて生きていることを喜び合った。
今でも北側の幹は樹肌がむき出しになって炭化しており、幹は白蟻に食害されて樹勢が弱くなっている。”地域の大楠を守る会”の人たちは、募金活動をして大楠の治療をしたり、被爆楠の苗木の配布をしたりしている。
大楠の木下に立つと、木の葉のざわめきとこどもたちの遊び声の中に、この地域を何十年ものあいだ暖かく見守ってくれてきた大楠の優しさが不思議と聞こえてくるような気がする(残したい日本の音風景)。