制作:東京シネマ新社 企画:日本ビクター 1998年
カラー 20分59秒
(1)伊勢志摩の海女の磯笛
(2)不動山の巨石で聞こえる紀の川 07:09~
(3)那智の滝 13:20~
緑の岬や島が伊勢湾口から熊野灘へと続く紀伊半島。その東の突端、伊勢志摩は、リアス式海岸が連なり、風光明媚な自然景観を形成している。海域は、豊かな漁場となり、魚介類の絶好の生息地だ。
そこに暮らす人々は、古来から漁業を中心に海と深い関わりをもって生活を営んできた。アワビやサザエなどを岩礁から潜り取る海女漁もそのひとつで、体力や経験が必要な昔ながらの特別な漁法である。
海女は、深い磯場の長い潜水から海面に浮上すると、その息継ぎのために、口笛に似た、物悲しげな吐息を発する。これは、一種の呼吸調整法だが、潮騒の中に響く音色は哀調を帯び、「海女の磯笛」と呼ばれて、伊勢志摩の代表的風物になっている。
(残したい日本の音風景100選から)
和歌山県橋本市杉尾の不動山のいただきに、永禄年間に信仰を集めたという不動尊が、現在もなおまつられている。付近には子もち石の巨石がいくつも積み重なったり、散在したりしている。
この巨石のひとつに、直径20センチ奥行き25センチの丸い穴があいており、耳をあてると神秘的な音が聞こえる。昔から”この世の音・あの世の音”といわれ、霊験あらたかなものとして大勢の人がお参りしてきている。
かつて杉尾は山深く不便な地域であったため、容易に「紀ノ川」まで行けない村人たちが、この音を聞いて、明日の天候を占ったり、紀ノ川に思いを馳せたりしていたという。
(残したい日本の音風景100選から)
那智の滝は、落差133メートル、日本三名瀑に挙げられる滝として全国的に知られている。
古くから熊野詣での目的地のひとつでもあり、原生林の中を飛沫をあげながら落下する様子は、訪れるものを荘厳な気持ちにさせてくれる。滝のしぶきにふれると延命長寿の霊験があると伝えられ、参拝客や観光客が途絶えることがない。
那智大社への参道からは、遠く滝音が聞こえるだけで姿は見えず、さらに本殿へ入れば、地形の関係で音さえも聞こえなくなるが、そこから奥へ進むと大滝が豪音とともに現われる。その変化する滝音が、古来、人々にこの地の神秘性を強く印象づけてきている。
(残したい日本の音風景100選から)