制作:東京シネマ新社 企画:日本ビクター 1998年
カラー 35分51秒
(1)博多祇園山笠の舁き山笠
(2)観世音寺の鐘 12:05
(3)小鹿田皿山の唐臼 18:44
(4)岡城跡の松籟 28:54
博多の夏は、祗園山笠で開ける。7月1日、10本以上の豪華絢爛な飾り山笠が博多の町を彩り、勇壮な博多祗園山笠が始まる。
夏に流行する疫病の退散を願って十三世紀に始まったもので、やがて町同士の争いから「舁き山笠」の競争がとり入れられたという。
「舁き山笠」は、祭が盛り上がり始める7月10日に満を持して登場し、山笠をかつぐ男たちの「オイッサ!オイッサ!」のかけ声が市内に響き、博多の町は山笠一色となる。
7月15日早朝「追い山笠」で祭は最高潮に達し、一番山笠だけに許される博多祝い唄の大合唱、舁き手たちの力強い「オイッサ!オイッサ!」のかけ声が町に響き、祭は終わる。
そして、暑い、明るい夏が始まる。
(残したい日本の音風景100選から)
太宰府は、学問の神様菅原道真公を祀る太宰府天満宮で有名だが、観世音寺も由緒深い。
天智天皇の創建と伝えられる観世音寺の梵鐘は、朱鳥13年(698年)に鋳造された京都・妙心寺の鐘と兄弟鐘といわれている。
その形、大きさは妙心寺の鐘とほぼ同じだが、上下の唐草文や龍頭(吊り下げる部分)からみて日本最古の鐘と考えられ、国宝に指定されている。
この日本最古の鐘は毎月18日の午後1時に撞かれ、一三〇〇年の時を越えて、古代の人々も聞いた鐘の音が太宰府のまちに響きわたる。
「都府楼はわずかに瓦の色を看、観音寺はただ鐘の声を聞く」と菅原道真の詩句にもうたわれている名鐘の音色だ。
(残したい日本の音風景100選から)
山間に唐臼の音がこだまする民陶の里、小鹿田皿山の唐臼。ここでは三百年近い伝統ある小鹿田焼が匠たちの手で作り出されている。
皿山の唐臼は、竿と杵と臼からできており、竿は根元をくり抜き、水流を受けて先端の杵を動かして臼の中の陶土をつく。
「ギィー……、ゴトン」と響きわたるのどかな唐臼の音は、里の中央を流れる大浦川のせせらぎと調和して、静かな山里の自然の中で心をなごませる風物詩であり、音のご馳走だ。
唐臼は全国でも珍しい水力を利用した陶土粉砕機で、3~4基連なったものが多く、現在は36基が動いている。
自然乾燥された原土は、この唐臼で細かく粉砕され、陶土として利用される。
(残したい日本の音風景100選から)
松籟とは針のような緑の松葉が何千何万本と松の枝にしげり、松の横枝が風によって強い弾力をもって上下左右にゆれ動かさせる際に立てる複雑優雅な風の交響楽である。
岡城跡の本丸跡に、樹齢100年の松の老木が残っている。
岡城は大野川(白滝川)と稲葉川の深い渓谷を堀として断崖上に築かれた中川氏の名城だったが、明治4年(1900年)に廃城、いまは石垣が残るのみである。
秋になると本丸跡の老松のまわりの木々が落葉をはじめ、松の緑は一段と映えるとともに、秋風を全身に受けた老松はすばらしい松籟を奏ではじめる。とくに秋の夜空に月が昇ると、城跡、松籟、月光が三重奏となり、まさに「荒城の月」の世界が現出する。
瀧廉太郎作曲、土井晩翆作詞の名曲が松籟の響きにのって聞こえてくるようだ。
(残したい日本の音風景100選から)