制作:東京シネマ新社 企画:日本ビクター
1998年 カラー 全35分
寅さんのふるさとでもある柴又帝釈天の参道は、いつも参拝客で賑わっている。川魚料理屋の生簀の水の音や飴屋がトントンと飴を切る音が聞こえ、境内に入ると、梵鐘が朝、昼、夕を告げる。
江戸川に出ると、船頭さんの手漕ぎの渡し船が、150mの向こうの対岸へと往復する。ゆったりと流れる江戸川の水に合わせるかのように漕いでいく。
川面をすべるように対岸に向かうギーッ、ギーッと船を漕ぐ櫓の音、そして春はヒバリのさえずり、夏のオオヨシキリのやかましく鳴く声、冬にはピーピーと鳴くユリカモメなどの声が聞えてくる。四季を通じて、多くの野鳥たちが集まってくる都心に近いオアシスだ。
武蔵野の風趣に富み、史跡や伝説の豊かな都立石神井公園の一帯。ボート遊びなどで賑わう石神井池を過ぎ、井草通りを渡ると、緑が一段と濃くなる。
三宝寺池は古くから湧水池として知られ、水生植物の宝庫だったところ。寒冷地植物のミツガシワや湿生地特有のカキツバタ、ハンゲショウ、コウホネなどがわずかに残り、国の天然記念物に指定されている。練馬区が区民から公募して選定した「静けさ10選」の場所でもある。
浮き島を眺めながら池をひとめぐり。樹々を飛び交う小鳥がさえずり、水鳥が泳ぐサンクチュアリになっている。風に揺れる樹々のざわめきが、静けさをいっそう感じさせてくれる。
時の鐘は、芭蕉の句”花の雲 鐘は上野か浅草か”のモデルになったといわれている。時計のなかった江戸時代の人たちは、鐘の音で時刻を知った。当時、江戸市中には「時の鐘」が9カ所あり、時報として2時間ごとに時を告げていた。
浅草寺にも鐘は残っているが、芭蕉が耳にしたのも、上野の山の「時の鐘」の音と伝えられている。
この「時の鐘」は寛永寺に属し、上野公園の精養軒近くの高台にある。初代の鐘は寛文六年(1666年)につくられたが、現存するのは天明七年(1787年)に鋳直されたもの。今でも朝夕6時と、正午の3回、昔ながらの音色を響かせ、多くの人の心を和ませている。
成蹊学園のシンボルともいえるケヤキ並木は、樹齢80年以上、高さ12mにもおよぶ古木124本が、7m間隔に整然と並ぶ。その美しさは比類のないものだ。
並木に立ち、目を閉じ、耳を澄ますと、四季折々、実にさまざまな「音」が聞こえてくる。春の新緑はやさしく爽やかな葉ずれ、夏は濃い緑の下のしじま、晩秋の軽やかな落ち葉の音、木枯らしが強く葉や枝をたたく初冬、また、鳥や虫たちの格好のすみかにもなっている。
都市化が進み、まちの緑もだんだん少なくなってきた武蔵野市にあって、このケヤキ並木はホッと心の和む、市民のオアシスとも呼べる場所だ。
演出:岡田一男、鈴木由紀
撮影:谷口常也、草間道則
音声:磯山直樹、清水繁
ナレーター:石原良
プロデューサー:吉田博、岡田一男